「蒼穹の昴 -2、3、4」を読んで
「蒼穹の昴 -2、3、4」(浅田次郎著、講談社文庫、2004/10初版)
通勤電車の中で読んでいたが、2巻以降、各巻の感想を書く暇もないうちに、気が付くと読み終わっていた。それだけ忙しかったことに加え、それだけ面白い本だったということのよう。
実際、大変面白く何度か危うく電車を乗り過ごしそうになった。
糞拾いから自ら浄身して宦官となり西太后に仕える李春雲(春児)、春児の兄の義兄弟で科挙に状元で合格し光緒帝に仕える梁文秀(史了)。
1巻を読み終えた時には、「この二人がどうやって立身出世していくのだろう?」というのが楽しみだったのだが、話はすぐに大きく広がり、主だった歴史上の人物が次々と登場し、すぐに壮大な歴史小説の体をなしていった。
一種オカルト的な要素や時間を超えたエピソードが出てきて、ファンタジーに近いノリも感じるのだが、かえって悠久の歴史を持つ「眠れる獅子」中国という神秘的なイメージを持てた。
興味深かったのは、日本史の授業ではほとんど教えられることのない近代史を中国の立場から描かれていたことである。これまで、当時の日本から見た小説はいくつか読んでみたが、中国側からの見方というのは新鮮であり、大変勉強になった。
欧米にジワジワと植民地化されていく清国、明治維新による政体変化で植民地化を免れた日本。そして、日清戦争後は、国際的な地位を高めて稚拙な帝国主義政策をとりはじめる日本、それとよく似た新興ドイツ・ロシア、一方、狡猾さを身につけ円熟した帝国主義政策をとる欧米列強。一方、日清戦争の敗北で軍事的な脆弱さが露になり、欧米と対等に渡り合える李鴻章も失脚し、崩壊への道を進んでいく清国。
こうした危機的な国際情勢の中、対立を深めていく西太后を中心とした后党派と皇帝を担ぎ上げた若手改革派中心の変法派。
特に、清国の末期の政治情勢は今回初めて知る内容が多く面白かった。また、日本は、欧米列強に加わろうとしながら、当の欧米諸国からはアジアということで蔑視され、中国などアジア大陸からも新興の小さな島国と蔑視されているようであり、現代の日本の立場にも似ているようで興味深かった。こうした国際的な立場は何としても改善していくべきだろう。
さすが中国と思わされたのは、香港に関わる李鴻章の英国との交渉である。99年の租借という他国にとっては永久に思える期限だが、中国の悠久の歴史にとっては少しの間ということなのだろう。その間に英国資本でしっかりとしたインフラ整備をしてもらいその後中国に返還してもらうというシナリオである。今になってみれば、10年以上も前にその通りに中国に返還されている。国が滅び植民地化されてなお、今また、獅子の力を見せている中国のすごさを実感させられる。
さて、本書自体の感想であるが、私が持っていた残酷な独裁者というイメージとは全く違ったイメージで西太后を描き、各歴史上の人物も魅力的な人物として描かれている。物語の構成ではあざとさ・わざとらしさが鼻につく点が多々あるが、私の感想では効果的な演出に感じられた。
結末については、私はもっとあっさりと読者の想像力に任せるような組み立てで良いのではないかと思った。ほぼ話は終わっているのに、登場人物の行く末を書き続ける手法は最終巻までワクワクしながら進んできた私には、未練がましいと感じられ若干残念であった。それでも、全体として見た場合大変面白い小説である。これはお薦め。
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